ひとりのおうち時間

静かな狂気…。湊かなえの文庫本を読む。

女性の数だけ人生がある。静かな狂気の世界に入り込む。これからの季節、おうちにこもって湊かなえさんの文庫本を読むのはいかがでしょう。最新作ではなく、文庫になっているものを選びましたので没頭しても腕が疲れなくておすすめです。

面白い小説に出会ったら、
その作家の本を全て読みたい欲が爆発する
編集部のヤマダです。

もちろん全部読みます。

そんな私が今回紹介するのは、
湊かなえさんの小説。
手がつかれるのは嫌なので、文庫本でどうぞ。

湊かなえ小説の魅力

湊かなえ小説の一番の魅力は、小説にでてくる人物たち。
全ての人にしっかりとした人生が存在しており、バックボーンが確立されているのです。

それが見え隠れする人物描写こそ、湊かなえ小説の真骨頂なのではないかと思います。その等身大の登場人物たちの心の動きが、よりリアルできな臭い雰囲気をストーリー上で醸しだしているのです。

どうして、そこまで人物描写が突出して素晴らしいのか。
それは、彼女の作風にあります。

なんと、執筆前に全ての登場人物(どんな脇役でも)の履歴書を作っているのだそうです。

構成の段階ですでに全ての登場人物の人格形成が済んでおり、彼女自身「履歴書が決まれば人物が動いてくれる」と言うほどに、物語は自ずと進んでいくのでしょうね。

湊かなえのおすすめ文庫本

夜行観覧車(双葉文庫)

高級住宅地に住むエリート一家で起きた殺人事件。犯人は誰なのか。のこされた子供たちはいったいどうなるのか。向かいに住む家族の視点から、事件がひも解かれていく。さまざまな家族の在り方が描かれた小説。

こちらもドラマ化されましたが、登場人物の雰囲気もストーリーもかなり違うのでドラマをすでに見ている人でもおすすめです。
人間が全て違うように、その集合体である家族の形もまた様々。
色んな背景を抱えた2つの家族と近所のおばさま。
湊かなえの作風でもある、それぞれの視点から描かれる違った世界を感じ取ってください。

往復書簡(幻冬舎文庫)

高校教師の敦史は、小学校時代の恩師に頼まれて、かつての教え子6人に会いに行くことに。実は、この6人と先生の間には、二十年前の不幸な事故が闇をおとしていた。それぞれの告白を手紙で伝えていた敦史だったが、6人目となかなか会うことができないでいた。いったい過去に何があったのか…

タイトル通り、当事者たちの手紙のやりとりのみでストーリーが紡がれていきます。
このスタイルは非常に高度な気がします。書き手にとっても読み手にとっても。
同じ経験をした者同士に、もはや事柄の説明は必要がなくひたすらに彼女・彼らの言葉尻から汲み取っていかなければなりません。
だからと言って、湊かなえの小説はとてもよくできているのでつまずくことなく、また飽きることなく読み進めることができます。

花の鎖(文春文庫)

両親を亡くし仕事も失った矢先に、祖母がガンで入院した梨花。結婚したが子供ができずに悩む美雪。水彩画の講師をしつつ和菓子でバイトする紗月。3人の女性をつなぐ、花の記憶。そして、謎の男「K」の存在。彼女たちの人生はどこでつながれているのだろうか…。

3人の女性の話が同時に進行していくのですが、伏線がが多くてしっかり読み進めないと大事な部分が抜け落ちてしまう可能性があるので気をつけてください。
ただ、それぞれの人生が絡み合いながら結末に向かう様子は実に見事です。
自分のルーツを少し考えさせられるストーリー。

サファイア(角川春樹事務所)

真珠・ルビー・ダイアモンドなど、7つの宝石にまつわるお話がつづられた短編集。夫の暴力に悩むわたし、恋人の事故死を受け入れられない女性、老人福祉施設にいるおいちゃんが殺人犯ではないかと疑う妹。それぞれの心情が鮮やかに描かれる。

7つのお話のどれをとっても似たようなストーリーはなく、最後まで楽しめます。
湊かなえにしては、軽快な展開が多く、中にはファンタジー要素が強いお話も。
7つの宝石をめぐる人々の心の動きを余すところなく感じとってみてください。

個人的には、サファイアが好きです。

母性( 新潮社)

女子校生が自宅の中庭で倒れているのが発見される。言葉を詰まらせる母親。11年前の台風の日、母と娘に訪れた悲劇を堺に、すべてが狂い始めていた。母の手記と娘の回想が交錯し、姿をみせはじめる真実。母と娘の物語。

母と娘というのは、不思議なつながりがあります。母のお腹から出てきた同じ性を受け継いだ娘。その愛の形はさまざまです。
人は、“愛”については異常なまでに敏感です。その対象が母娘ならなおさら。母の愛は、どこに向けられているのか。いつまでも、母の呪縛から逃れられない娘たち。その悲しいまでの叫びをご覧ください。

望郷(文藝春秋)

架空の島をめぐる6つのお話がつづられた短編集。島を捨てた人、島から出たいと願う人、島に残った人。それぞれの人生から垣間見える島という存在。最後にたとりつく場所はどこなのか…。

湊かなえ自身が因島出身ということもあって、物語にも説得力があります。もともと登場人物の描写はうまい方ですが、表現の深さのようなものをさらに感じます。

閉鎖的な島で、さらに個人という狭い空間の中に閉じ込めた悲しみや罪悪感を抱えた人たちが織りなす6つのお話。島にある連帯感という束縛から逃れようとする人たちへのエール。

読み応えのある1冊です。


いかがですか?
ある意味では、癖のある世界なので好き嫌いはあるかもしれませんが
まずは、1冊手に取ってみてください。

※本の装幀など、変更されている場合もありますのでご注意ください。

湊かなえ
アパレルメーカーや家庭科の非常勤講師などの職業を経て、さらには結婚までしたのち34歳であった2007年に「聖職者」が第29回小説推理新人賞を受賞して作家デビュー。
その後、2009年に「告白」で第6回本屋大賞を受賞。
多くの作品がドラマや映画化されている。