ひとりのおうち時間

その男にゾッとする、おすすめ映画『ノーカントリー』

コーマック・マッカーシー原作の「ノーカントリー」。原題は「No Country for Old Men」。映画に込められた意味深なメッセージ。監督・脚本を手がけたコーエン兄弟たちは好き嫌いがはっきりと分かれることで有名。あなたは好き嫌い、どっちになるかな?

天気が良い日は、気持ちがいいですが、
太陽が容赦なく降り注ぐさなか、外で遊ぶのはかなりリスキー。
紫外線、肌あれ、乾燥、シミ…。
ぎゃーっ!

…や、やっぱり、お家でゴロゴロ映画でも見ましょう。

今回は、ホラーでもスリラーでもないけれど
ゾッとする映画「ノーカントリー」をご紹介します。

ノーカントリー という作品

あらすじ

荒野で狩りをしていたベトナム帰還兵のモスは、偶然ギャングたちの死体と大金200万ドルを発見。モスはそのお金を奪って逃走するが、ギャングに雇われた殺し屋シガーが迫る。邪魔者を次々と殺しながら執拗に追いかけてくるシガーからモスは逃げ切れるのか。一方、事件の発覚後、保安官トムは二人の行方を追いかけるが…。追う者、追われる者、彼らは衝撃の結末へと向かっていく。

監督・脚本 コーエン兄弟

「ファーゴ」や「ディボース・ショウ」「バーバー」などを手掛けるコーエン兄弟。
兄ジョエル・コーエンと弟イーサン・コーエンは、監督・脚本・制作全てにおいて2人共同で携わっている仲良しユニット。映画界においては、いろんな表現で括られ、様々な評価を受けています。確かに、その世界観は独特で通常のセオリーはまず当てはまりません。
例えば、突然に意表をつくカット割りがあったり、変な小ネタが仕込まれていたり、
登場人物ひとりひとりがじっくり描かれすぎて、とにかくお腹いっぱい状態になったりする。
しかし、ヒステリックな雰囲気や変な間がもたらす効果は、とても見事と思わずにはいられません。
その演出こそがこちらの猜疑心をかきたて、すわり心地の悪さを増幅させるのですから。
いずれにしろ型にはまらないコーエン兄弟の作風が『ノーカントリー』においてもいかんなく発揮されています。
ただ、受け取り手によって、様々な解釈を生むのもまた彼らの作品の特徴で、好き嫌いが非常に顕著に分かれます。さて、あなたは、はまるタイプか二度と観ないタイプになるのか。
ぜひ、『ニーカントリー』でお試しください。

殺し屋シガーの存在感

『ノーカントリー』で、最も強烈なのは殺し屋シガーの存在です。
シガーを演じるハビエル・バルデムは、本当に凄い。
こんなチープな表現しかできないことが悔しいほどに圧巻です。
冷徹な殺人鬼なら、今までごまんと映画史上で描かれてきたでしょう。
しかし、ノーカントリーにおける殺し屋シガーは、「冷徹」という感情すらない「無」なのです。
侵入するためにドアを吹っ飛ばすのも、通りすがりの人の頭を吹っ飛ばすのも同じ。
彼の動きが同一である限り、対象が何かなど関係ない。ただ、邪魔なもの。それだけなのです。それが、非常に怖い。

理不尽すぎる事態に私たちは、理解が追い付かない。
でも、その時ふと思うのです。今の世間に存在する恐怖と同じじゃないかと。
「今時の若い人は」では、すまされないやり場のない恐怖と似ていることに。
原題『NO COUNTRY FOR OLD MEN』の解釈はそれぞれですが、直訳すると『おじいさんには、もう国はない』。
おじいさんとは、シガーを追っている保安官のトムのことだと思いますが、そのおじいさんの知っている故郷はもうない。もはや、理解できない世界であると言っているようにもとれるのです。

極端に少ない“音”

本作には、とにかく音が少ない。それは、効果音しかりBGMしかり登場人物のセリフしかり。
余計な音がひとつも存在しません。その演出は、その場にいる臨場感とともに、仕方なく連れてこられたような嫌な気分を誘います。今、目の前で起こっていることを余計な情報なくして自分の目でしっかり見なさいと突きつけられているようです。
もはや私たちは、観客ではないことに気づかされます。
沈黙をもって提案される問題に、釘づけになることは間違いありません。


いつだって時代は変化し、それが当たり前のことと分かってはいても、私たちは「最近、世の中何かがおかしいよね」と言い合っています。
この映画で語られる、カントリーはまさに今を生きる私たちの故郷であり、シガーという男の存在に恐怖を感じずにはいられません。
通り魔的に繰り返される暴力や略奪。
世間のルールではなく、個人のルール。
スクリーンの中にとどまらない身近な脅威がそこにあります。

感情や理由はどこにあるの?

ラストシーンを見終わったあと、我に返ると、ゾッとします。

少し複雑な気持ちを持て余して…。
あなたの週末にシネマを。

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2008年公開
「ノーカントリー」
監督・脚本:ジョエル・コーエン
      イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー
出演:トミーリー・ジョーンズ
   ハビエル・バルデム
   ジョシュ・ブローリン ほか

アカデミー作品賞・助演男優賞・監督賞・脚色賞受賞
ほか数々の映画賞にノミネート、受賞
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