ひとりのおうち時間

おすすめ映画:西川美和監督『ゆれる』

吊り橋を挟んで“ゆれる”兄弟の物語。2006年に公開されたオダギリジョー主演の映画。対照的な兄弟の関係性が面白い。一人の女性が原因で「ゆれる」兄弟たちのストーリー、ぜひ家でひとり、ひっそりと観て頂きたい。

寒かったり暑かったりと、季節の変わり目は気温の変化が激しい。
体調管理に気を付けないとすぐに体調を崩してしまいますよね…。
平日のお仕事でお疲れのみなさま。
週末は、ゆっくりおうちで映画でも見て過ごすのも体力回復にはもってこいですよ。

今回、おすすめする映画は西川美和監督の『ゆれる』です。

『ゆれる』 という作品

あらすじ

故郷を離れて東京で写真家として成功していた猛は、久しぶりに帰郷することに。実家に残って家業を継ぐ兄の稔と、幼馴染の智恵子と近くの渓谷へと出かける。そこで、智恵子が吊り橋から落下するという事件が起こる。その時、傍にいたのは稔だけ。事件なのか事故なのか。裁判が始まる中で、2人の兄弟の運命が激しくゆれはじめる…。

みどころ

“ゆれる”兄弟

この映画の見どころは、何よりも対照的な兄弟の心理描写につきます。
都会に出て家族のことも忘れ、好きなことをして自分のことしか考えない弟。
閉鎖的な田舎で、家業を継ぎ家を守るということを律儀に続けている兄。
兄弟のいる人なら、少なからず似たような状況に置かれている人もいるのではないでしょうか。
あなたが兄の立場か弟の立場かによって、この作品から感じる痛みは全く違います。
家族という集団の中で、兄弟とはまた複雑な関係です。
時にライバルであり、時に他人になり、時に支えあい、時にひどく無関心。
だけど、決して消えることのないつながり。

稔と猛の兄弟も、その事件が起きるまではそんな曖昧でもろい普通の兄弟だったのです。
それが、智恵子という女性を挟んでお互いの心が“ゆれ”ます。
久しぶりに会う兄弟は、お互いがどんな生活を送りどんな風に感じてきたのかを全く知りません。
猛は、兄のことを昔のまま優しくて何でも許してくれる人なんだと勝手に決めつけていたけれど、果たしてそうなのだろうか。それが少しずつ少しづつ崩壊していく。
その音が、静かに重く観客の心にも響いてきます。

“ゆれる”吊り橋

智恵子が橋の上から転落。事故なのか、稔が突き落としたのか。唯一の目撃者は、弟の猛。
裁判が始まり終わるまでの間に、稔の主張は変化していきます。
稔のほの暗い本音が見え隠れし始め、猛はどんどん混乱し追い詰められていくのです。
“ゆれる”吊り橋を挟んで向かい合う、兄弟。
証言台に立った猛は、一体何を語るのか。
それは、誰のための証言なのか。自分のため?兄のため?
そのことを考えると、私たち観客は果てしなく悩ましい問題に直面します。

弟を守るように言われる兄と守られて育った弟の性。
お互いに知らない人になっていく兄弟は、お互いの知っている昔のままの兄弟を取り戻そうとします。それぞれに方法は違うけれど。
どこまでも兄は兄であり、どこまでも弟は弟であり続ける。
兄弟にとって、この関係が逆転することは決してありません。
この作品を通して切実にそんなことを感じます。

劇中の終盤に猛がこんなことを言います。
「誰の目にも明らかだ。僕が奪い、兄は奪われた」
果たして、どういう意味なのか…。
ぜひ、確かめてみていただきたい。


離れて暮らす兄弟は、本当に限りなく他人になる瞬間があります。
家に残る側は、きっと親のことや近所との関係など自分以外のことで苦悩することになるが、家を出た側はそんなことを露とも知ることがない。
離れた兄弟の溝は、そうやって出来ていくのかもしれない。
けれど、きっとそれでも、と。
稔と猛に自分を重ね合わせずには、いられません。

風の変化を感じる休日。
あなたの週末にシネマを。

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『ゆれる』
2006年公開
監督・原案・脚本: 西川美和
キャスト:オダギリジョー
     香川照之
     伊武雅刀
     新井浩文
     真木よう子 ほか
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