ヒマつぶしコラム

徒然草に見る”僧侶系ニート男子”の言葉が沁みる

日本三大随筆の「徒然草」。あまり触れる機会のない本編から、おすすめの言葉をご紹介。現代に居たらただのニートなのかもしれませんが、これはちょっと違う、僧侶系ニートの話。

つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ。

引用: http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure000_049/turedure000.htm

このフレーズ、みなさん一度は目にしたり読んだりしたことがあるのではないでしょうか。
そう、日本で最も有名な日記のひとつ、「徒然草」です。

徒然草の作者である兼好法師は、出家後の隠居生活をしていた最中にこれを記したと言われており、この序文は「暇にまかせて一日中机の前にいるときに心に浮かんだことを適当に書きとめておいたものであるので、実にくだらないばかばかしいものである」と訳されます。ですが、ばかばかしいと言いつつ読み込んでみると、なかなかどうして核心をついたことを言ってくる。

なかなか読む機会がない本編ですが、日本が誇る三大随筆、どんなことが書いてあるか気になりませんか。
兼好法師がどういった背景でこれを書き記したのか、合わせてご紹介します。

兼好法師 ~僧侶系ニート男子in鎌倉時代~

兼好法師は、鎌倉時代末期~南北朝期の歌人で、「徒然草」や「太平記」などの著者です。
本名は卜部兼好。1313年(正和2)にはすでに出家し、法名は本名を音読し「けんこう」としました。
20歳代の初めから歌道の第一人者であった二条為世の門下に入り、二条家四天王のひとりと言われました。

兼好が生きた鎌倉時代から南北朝時代は非常に動乱の時期であり、それまで日本を統治していた朝廷の力が衰え、武士が世の中の中心となっていきます。
下級貴族の出身であった兼好の境遇をざっくり現代風にいうと、
「超優良企業に勤めている父をもったが、その企業がだんだん落ち目に。とはいえそのまま就職し、自分も同じく新設の部署でありながらも社長に可愛がられるポジションまで昇進。ところが自社は世の流れに逆らえずどんどん落ちぶれていき20代後半で離職・出家し、スローライフを送ることを決意。」
といったもの。
隠居・スローライフというと聞こえはいいですが、要はニート生活を送っている中で、書き記したものが徒然草というわけです。(用事の代行や不在地主としての収入があった為、正確にはニートとは言えませんが…。)

【徒然草】おすすめの段

さて、そんな兼好法師が記した本編から、慰めも優しさもない上にフレーズとして覚えて胸にしまっておくようなタイプではない、でも心がざわついた時に静かに隣に在ってくれるような言葉をご紹介します。

『211段 原文』

身をも人をも頼まざれば、是なる時は喜び、非なる時は恨みず。左右広ければ、障らず、前後遠ければ、塞がらず。狭き時は拉げ砕く。
心を用ゐる事少しきにして厳しき時は、物に逆ひ、争ひて破る。
緩くして柔かなる時は、一毛も損せず。

 人は天地の霊なり。天地は限る所なし。人の性、何ぞ異ならん。寛大にして極まらざる時は、喜怒これに障らずして、物のために煩はず。

引用: http://www2.yamanashi-ken.ac.jp/~itoyo/tsuredure/turedure200_243/turedure211.htm

『211段 訳』

自分であろうと他人であろうと一切をあてにしないことだ。
そうすれば、うまくいったときに喜ぶことはあっても、うまくいかないときに腹の立つことはなくなる。

心の幅を広く持てば何も邪魔には感じないし、心の奥行きを深く持てばすぐに行き詰まることもない。
逆に、心が狭いとすぐに他人と衝突して傷ついてしまう。

だから、心の働きが足りず余裕のない人は、何もかも気にくわず、争い事を起こしては傷つくことになるが、逆に、心が寛大で柔軟な人は、決して傷つくことがないのである。

人間は天地が生み出した神秘的な存在である。
その天地に際限がないのだから、人間の心に際限が無くて何の不思議があろう。
そして、心が広大で際限がない なら、喜怒哀楽の情にわずらわされることもなく、他人のために苦しみ悩むこともなくなるのである。(第211段)

引用: http://www.geocities.jp/hgonzaemon/turezuregusa.html#jodan

前半はどこかで聞いたことがあるようなお話ですね。
感心してしまうのは、その理由を語った後半部分。
心の持ち様についてですから、社会科学的根拠なんてもちろんありません。
ですが、なにかと自分で自分を縛ってしまいがちな私たちに「天地に際限がないんだから心に際限がなくて何の不思議もないんだよ。そうして広く持っていれば煩わしいことなんかに無駄に気持ちをすり減らさなくていいのさ。」と実に軽い拍子で語る部分は、なんとも沁みます。

たかがニートされどニート。
特別な環境で得た経験と歌人や風流人としての才を持った兼好だからこそ生まれた言葉と価値観が綴られる徒然草は、日本三大随筆に挙げられるのも納得です。


いかがでしたか。
僧侶系ニート男子のつぶやき、ちょっと面白いですよね。
疲れた時や、日々に煩わしさを感じた時やなんだか落ち着かない時は、兼好のゆるっとした、けれども真理だと思える言葉の数々に触れてゆっくりしてみましょう。