ひとりのおうち時間

すり減った心にじんわり。「本当の自分」を肯定する…西加奈子の本でほっと一息。

今話題の読書芸人たちがこぞっておすすめ本としてあげる西加奈子さんの本。まだ読んだことがない人にも、これから読もうと思っている人にも、おすすめの文庫本をご紹介します。

私が初めて西加奈子さんの本を手にとったのは、母に「主人公の年代や状況があなたそっくりだから」的なことを言われてすすめられたのがきっかけ。

それからすっかりハマってしまい、新作が出ると欠かさず読んでいます。
アラサ―女性には、ぜひとも一度手にしてほしい西さんの本。

今回は、そんな私を虜にした西加奈子さんの文庫本をご紹介します。

西加奈子小説の魅力

人物描写がとても繊細で、小説に登場する彼ら・彼女らの日常のいたるところに“痛み”の存在を感じます。幅広い登場人物たちの生き方と世間との共鳴あるいは悲鳴を見事に描いています。

しかし、決して悲しい話ではないのです。西さんの小説は、いつも最後に希望があります。時々、笑いがあります。そして、たまらなく泣ける瞬間があります。
たくさんの感情の波が一気にあふれ出し、サッと引いていく、そんな感覚。
残ったのは自分の確かな足跡だけ、それが何とも読んでいて気持ちがいい。

生きることに不器用な人たち。西さんは、物語を介して不器用な自分をもっと愛していいのだよと語りかけてくれます。人と人との関わりの中にこそ、悩みの答えが隠されているのだということとセットにして。
みんな、ひとりでは生きてはいけないのだから、時に寄りかかり、わがままを言い、傷つけ、傷つけられても大丈夫だからと、優しく教えてくれます。

答えがいくつもある世界に生きる私たちへのエールのようです。

西加奈子 おすすめ文庫本の紹介

うつくしい人 (幻冬舎文庫)

他人の目を気にして、びくびくと生きている百合。ある日、単純なミスがきっかけで会社を辞める決意をする。思い立って離島のホテルへと旅に出た百合は、全く人のことを意に介さないバーテンダーの坂崎やドイツ人マティアスと出会う。2人との時間を過ごすうちに自分の心が少しずつ楽になっていくのを感じていた…。

程度の違いこそあれ、他人の目を気にしながら生活している人は多いような気がします。主人公の百合が二度と会わないかもしれない空港のグランドスタッフやホテルスタッフにすら気を遣いながら旅を続け、時に自分のとった行動に後でくよくよと悩む姿は、とてもリアルで何故だか妙に共感してしまいます。

心が摩耗して悲鳴をあげているということに、本人が気づかない場合というのはよくあります。
自分は大丈夫と思っている人にこそ、ぜひ手に取ってほしい作品です。

白いしるし(新潮文庫)

32歳、独身女性。傷つくことを恐れ、恋から遠ざかっていた夏目。そんな時に出会った間島の絵。一瞬にして心を奪われ、間島への恋も走り出してしまう。触れるたびに募る想いに比例して痛みも増していく。終わりを知っている恋は、人を強くするのか?全身全霊の恋愛小説。

物語の主人公、夏目。その夏目が恋する間島。だけではない、2人を取り巻く登場人物すべてに一見しただけでは分からない問題や悩みが潜んでいます。他人という存在の難しいところです。何度恋をしていてもぶち当たる壁なのかもしれません。

普段見ているあの人は、本当はどんな人なのか?見たままの人間なんてこの世にいないかもしれない。そう考えさせられるお話です。
30代、独身女性には共感必須の本かもしれません。

漁港の肉子ちゃん(幻冬舎文庫)

男にだまされやすい母・肉子ちゃんと一緒に辿り着いた北の街。肉子ちゃんは漁港の焼肉屋で働いている。キクりんは、最近太っていて不細工な母が最近恥ずかしい。そんな母娘と漁港に生きる人々を通して、そっと勇気をくれる物語。

小学生のくせに冷めているキクりんの、肉子ちゃんに対する軽快なつっこみが絶妙に面白い。
良い意味でも悪い意味でも人を疑うことをしない肉子ちゃん。言葉の裏に何が潜んでいるのか、その行動の意味は何なのか。そんな複雑なことを考えない肉子ちゃんにヤキモキしながらも、まんまと最後に感動させられます。

反対に、幼いキクりんからは大人のような苦悩がみてとれます。自分のことを殺しすぎて、いつしか自分でも自分が分からなくなる瞬間。この世に生きることって、もっと単純なことなのだと肉子ちゃんに教えられている気がします。

ふくわらい (朝日文庫)

暗闇で福笑いをするのが唯一の趣味である編集者の鳴木戸定。愛情や友情に無頓着だった定は、直球に愛を語る盲目の男や必死に自己表現を続けるレスラーとの関わりあいの中で、自分を包むこの世界を知っていく…。

この小説のすごいところはと聞かれれば、多彩な登場人物だと思います。変わり者などというありきたりな表現では片づけられないほどの濃いメンツが登場します。どうして、そんな設定が思いつくのかと驚かされます。

主人公の鳴木戸定は幼い頃に特異な体験をします。だから、大人になった定と世間の常識には溝がある。だけど、誰が常識という言葉の正解を知っているのでしょう。他人を理解するということは、本当に必要なのでしょうか。自分を生きるために必死にもがいている人たちから、多くを考えさせられるお話です。

ふる (河出文庫)

アダルトビデオのモザイクがけの仕事をしている池井戸花しす、28歳。趣味は、ICレコーダーで1日の会話を隠し録りすること。誰の感情も害さないことにひっそりと全力を注ぎ、過去を愛おしむ毎日。そんな彼女に、少しずつ訪れる変化。過去、現在、未来が「今」につながる物語。

小さいころから周りの空気を読み、関わる人全ての感情を害さないことを考えてきた花しす。実は、それが卑怯な行為であると自分では思っている。世間は、「違う」ということをあまり快く許してはくれません。個性が大事などという言葉が、なぜ生まれたのか疑問になるほどに。だけど、誰かと繋がっていたい。ひとりでは生きていけない人間のささやかな生活が丁寧に描かれています。

炎上する君(角川書店)

何かにとらわれて動けなくなってしまった人たちの物語。表題「炎上する君」をはじめ8つの短編集。少しずつ変化していく不穏な日常が丁寧に描かれている…。

この短編集はとても自由でふわふわしたファンタジーのようなお話ばかり。同じ生年月日の山崎ナオコーラに嫉妬する女性、自分のきれいなお尻に振り回される女性、地図には載っていない“船の街”へ行く女性。日常の中に、小さな足音で近づいてくる不穏な物音とそれがもたらす変化。

分かりやすく言えば西加奈子版「世にも奇妙な物語」のような小説です。

非日常の世界で見つける自分の“生”が強烈に光る物語です。


西加奈子さんの本は、リアルな人間とのつながりが薄れている現代の救いの本なのかもしれません。気になる方は、ぜひ一度手にとってみてください。

※本の装幀など、変更されている場合もありますのでご注意ください。

西加奈子
イラン・テヘラン生まれ。小学1年生から5年生までエジプト・カイロ、その後大阪で過ごす。『ぴあ』のライターを経て、2004年「あおい」で小説家デビュー。

主な受賞歴
2007年、「通天閣」で織田作之助賞大賞受賞
2015年「サラバ!」で第152回直木三十五賞を受賞

ちなみに、直木賞受賞式の席でも公言するほど大のプロレスファン。

この本が気になった方には、これもおすすめ!

関連記事: 湊かなえの文庫本を読む